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東京地方裁判所 昭和59年(ワ)6898号 判決

甲・乙事件原告 石川貞夫

〈ほか七名〉

右甲・乙事件原告ら訴訟代理人弁護士 小谷野三郎

同 的場徹

同 築地伸之

同 森健市

同 鳥越博

右甲・乙事件原告ら訴訟復代理人弁護士 虎頭昭夫

同 遠藤憲一

同 武内更一

甲・乙事件被告 共栄興産株式会社

右代表者代表取締役 増田徹

〈ほか一名〉

乙事件被告 中沢信蓮

〈ほか四名〉

右甲事件・乙事件被告ら七名訴訟代理人弁護士 岡村治信

同 吉田豊

乙事件被告 丸山正幸

右訴訟代理人弁護士 坂巻国男

主文

一  甲事件原告らの甲事件被告らに対する請求をいずれも棄却する。

二  乙事件原告らの乙事件被告らに対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、甲・乙事件を通じて甲・乙事件原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 甲事件被告らは、各自、別紙請求金額一覧表「原告氏名」欄記載の各甲事件原告に対し、同表「甲事件請求金額」欄記載の金員を支払え。

2 訴訟費用は甲事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(甲事件被告ら)

1 甲事件原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は甲事件原告らの負担とする。

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 乙事件被告らは、各自、別紙請求金額一覧表「原告氏名」欄記載の各乙事件原告に対し、同表「乙事件請求金額」欄記載の金員及びこれに対する昭和五九年二月一日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は乙事件被告らの負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁(乙事件被告ら)

1 乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は乙事件原告らの負担とする。

第二当事者の主張

(甲事件)

一  請求原因

1 白老バーデン開発地主組合(以下「地主組合」という。)は、甲・乙事件原告真々田節二(以下「原告真々田」という。)を除く甲・乙事件原告ら(以下、甲・乙事件原告ら八名を「原告ら」という。)ほかの別紙出資一覧表「組合員名」欄記載の二一名のものがそれぞれ所有する同表「出資土地」欄記載の土地(以下「本件土地」という。)を出資して設立された民法上の組合である。

地主組合は、本件土地につき甲・乙事件被告共栄興産株式会社(以下「被告共栄興産」という。)が昭和四七年一月一八日、住宅地造成事業に関する法律(昭和三九年七月九日法律第一六〇号。以下「宅造法」という。)による認可を受けた本件土地の造成工事を行い、これを分譲地として販売し、その収益を分配することを目的としている。

2 地主組合の組合員であった真々田亘は昭和五六年七月一五日死亡し、原告真々田は地主組合に対する持分払い戻し請求権を相続により取得した。

3 土地造成工事費の流用

(一) 地主組合の設立総会において、本件土地の造成工事費は被告共栄興産が立替支出することと決定されていた。

(二) 被告共栄興産は本件土地(以下「甲地区」ともいう。)に接続する北海道白老郡白老町北吉原四七一番地の一、同番地五、同町北吉原四七二番地の一、同番地の四、同町北吉原四六九番地の各土地(以下これらをあわせて「乙地区」という。)及び同町萩野四五八番地の一ないし一二の各土地(以下これらをあわせて「丙地区」という。)を所有していたところ、被告共栄興産は、甲地区のほかに地主組合の事業の対象外である乙・丙地区を含めて造成工事を松井建設株式会社に請負わせ、その全工事代金の支払として次のとおり地主組合の組合財産から支出した。

昭和四七年 五〇八〇万円

昭和四八年 一億四〇〇〇万円

昭和四九年 一四〇〇万円

合計 二億〇四八〇万円

(三) 甲・乙・丙地区の合計面積は二四万二一五九・九四三平方メートル、乙・丙地区は九万二七五一・六七八五平方メートルであるから、乙・丙地区の造成工事費を面積比で計算すると、七八四四万二一三六円となる。

(四) 前記昭和四七年から昭和四九年までの前記乙・丙地区面積比相当の各支出に対する昭和五八年一一月三〇日までの法定利息(年五分)相当の損害金は、別紙計算表1のとおり合計三九五五万二七一一円となる。

(五) したがって地主組合の損害額は(三)、(四)の合計一億一八〇三万四八四七円となる。

4 恣意的な公共減歩申請

(一) 被告共栄興産は、宅造法に基づく認可を受けているが、右認可においては、甲地区については総面積一四万九四〇八・二六四五平方メートル中、公共減歩は四万一〇三二・二平方メートルであって、その割合は二七・四六パーセントであるが、被告共栄興産所有の乙・丙地区については総面積九万二七五一・六七八五平方メートル中、公共減歩は五七一三・八六二平方メートルであって、その割合は六・一六パーセントにすぎない。

(二) 被告共栄興産は甲地区と乙・丙地区を一体として開発申請したのであるから、その公共減歩を同率にすべきであり、これが困難としても公共減歩率の差が最小限となるよう努め、組合員の承諾を得るべきであるのに、自己の有効土地面積を広く獲得するため右のとおり著しく不合理な公共減歩率とし、地主組合の組合財産を減少させた。

甲・乙・丙地区を合計した面積(二四万二一五九・九四三平方メートル)中の公共減歩の面積(四万六七四六・〇六二平方メートル)の割合は一九・三パーセントであるから、甲地区についても右同率の負担にとどまるべきである。

(三) したがって本件土地(甲地区)については三六八九坪(一坪三・三平方メートル計算)が不当に奪われていることになり、本件土地の坪単価は三万二〇〇〇円であるから地主組合は一億一八〇四万八〇〇〇円減少させられ、同額の損害を受けたこととなる。

5 組合財産からの仮払金支払

(一) 被告共栄興産は組合長として、地主組合の組合財産から仮払金名目で次のとおり合計二億〇三五〇万円を同被告に支出し、同被告は昭和五四年三月二日に右同額を地主組合に返還した。

昭和四八年 九〇〇〇万円

昭和四九年 八〇〇〇万円

昭和五一年 六五〇万円

(二) 右仮払金は実質的には地主組合の被告共栄興産に対する不当な無利息の貸付である。

(三) 右各支出により地主組合は、別紙計算表2のとおり、昭和五四年三月二日までの法定利息(年五分)相当の合計四一五二万〇四七九円の損害を受けた。

6 販売手数料の二重払

(一) 昭和四七年六月三日の地主組合設立総会において、公共減歩二七・七パーセントを公共等減歩三〇パーセントと計算し、その差二・三パーセント相当額で組合費用一切を賄い、残金を被告共栄興産の手数料とする旨の決議がなされ、そのほかに実費や謝礼を支出することは予定されておらず、被告共栄興産は右二・三パーセント相当の支払いを受けた。

(二) しかるに被告共栄興産は組合長として右のほか本件土地販売手数料名目で組合財産から同被告に対し、次のとおり合計六六五一万二四八五円を支払った。

昭和五〇年 一四五〇万円

昭和五一年 二五五〇万円

昭和五二年 一二四〇万円

昭和五三年 二五〇万円

昭和五七年 一一六一万二四八五円

右手数料は、宅地建物取引業法の認める最高限度額(代金の三パーセントに六万円加算)を売主、買主双方から受領するものとして計算されている。

(三) しかし本件土地の販売手数料は別途、公務員公済株式会社ほかに支払われており、被告共栄興産自身は報酬請求し得るような行為はしていない。

(四) したがって右各支出及びこれに対する別紙計算表3のとおりの昭和五八年一一月三〇日までの法定利息(年五分)相当の金額一九三六万八一七三円の合計八五八八万〇六五八円が地主組合の損害となる。

7 被告共栄興産は地主組合の業務執行組合員たる組合長であり、原告らは被告共栄興産に地主組合の運営を適切に行ない、地主組合の得た利益を各自の出資額に応じて配分することを委任した。しかるに被告共栄興産は善良な管理者としての注意義務を怠り、委任の趣旨に反して前記のとおりの債務不履行または不法行為にあたる行為をなし、地主組合に損害を生じさせた。

8 甲・乙事件被告増田徹(以下「被告増田」という。)は被告共栄興産の代表取締役として被告共栄興産と共同して前記のとおりの不法行為をなしたものである。

9(一) 地主組合の損害は前記3ないし6の合計三億六三四八万三九八四円であるところ、甲事件被告両名(以下「被告両名」という。)は前記債務不履行または不法行為により地主組合に損害を被らせた結果、原告らに対する配分の原資となるべき財産を減少させた。これにより原告らは利益配当請求権を侵害されたものであり、その各損害額は別紙出資一覧表「価額」欄記載の各自の金額の全金額合計に対する割合に応じた別紙請求金額一覧表「甲事件請求金額」欄記載のとおりとなるから、被告両名は連帯して右損害を賠償すべき責任がある。

(二) 仮に一般に組合財産の不法処分による損害賠償請求権が組合に属する組合債権であり、組合員個人による権利行使が許されないとしても、本件においては地主組合の運営をめぐって、原告らと被告両名とは決定的に対立しており、しかも被告共栄興産が組合長であるという状況のもとにおいて、総組合員の合意または業務執行者の権限に基づく損害賠償請求権の行使という事態はありえず、このような場合においてすら総組合員の合意または業務執行者の権限に基づく権利行使を要求することは不可能を強いることになる。また被告両名は昭和五八年九月二九日の地主組合総会において同月三〇日をもって解散することを決議し、昭和五九年二月一八日付で清算人代表者名をもって各組合員に報告、了承された旨主張しており、地主組合は事実上機能せず、組合財産を清算すべき状況にあるから、このような状況のもとにおいてなお組合の団体としての性格を堅持して総組合員による権利行使しなければならないとする合理的理由はない。

したがって本件においては原告ら個人による損害賠償請求権の行使が認められるべきである。

(三) 仮に右主張が認められないとしても、原告らは予備的に地主組合が解散していることを主張する。組合が解散された後、清算の一方法として組合債権が組合員に分割されたときには各組合員による権利行使は認められるところ、本件においては清算人が各組合員に対し債権額を特定して割当てていないが(被告両名は損害賠償請求権の存在自体を否定しており、割当てはおよそ期待できない。)、計算上割当てられるべき債権額が特定できるのであり、このような場合にも組合員個人からの請求を否定すれば清算人の職務怠慢がある限り各組合員は請求できないという極めて不合理な結果となるから、計算上割当てられるべき債権額が特定できるときも清算の一方法として組合員に分割された場合にあたるというべきである。

したがって原告ら個人による損害賠償請求権の行使が認められるべきである。

よって、原告らは、被告共栄興産に対し、不法行為または債務不履行による損害賠償請求権に基づき、被告増田に対し、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、前記各損害額の支払を求める。

二  請求原因に対する認否(被告両名)

1 請求原因1中、原告真々田を除く原告ら及び真々田亘が地主組合の組合員であったことは認めるが、その余は否認する。

地主組合の性格、財産、目的等については後記被告両名の主張2のとおりである。

2 同2中、地主組合の組合員であった真々田亘が死亡したことは認めるが、その余は否認する。

3(一) 同3(一)は認める。

(二) 同(二)中、乙・丙地区の造成工事費用を地主組合の財産から支出したことは否認し、その余は認める。

原告ら主張の支出は被告共栄興産内部の経理処理にすぎない。

(三) 同(三)は認める。

(四) 同(五)は否認する。

4 同4中、(一)は認め、(二)、(三)は否認する。

5 同5は否認する。

原告ら主張の支出は被告共栄興産内部の経理処理にすぎない。

6(一) 同6(一)中、原告ら主張の地主組合設立総会において、原告ら主張のとおりの決議がなされたことは認めるが、そのほかには被告共栄興産に支払がなされることが予定されていなかったことは否認する。

(二) 同(二)は否認する。

原告ら主張の支出は被告共栄興産内部の経理処理にすぎない。

(三) 同(三)中、販売手数料が原告ら主張のものに支払われていることは認めるが、その余は否認する。

(四) 同(四)は否認する。

7 同7中、被告共栄興産が地主組合の業務執行組合員たる組合長であることは認めるが、その余は否認する。

8 同8中、被告増田が被告共栄興産の代表取締役であることは認めるが、その余は否認する。

9(一) 同9(一)は否認する。

(二) 同(二)中、被告両名が昭和五八年九月二九日の地主組合総会において同月三〇日をもって解散することを決議し、昭和五九年二月一八日付で清算人代表者名をもって各組合員に報告、了承された旨主張していることは認めるが、その余の主張は争う。

(三) 同(三)の主張は争う。

三  被告両名の主張

1 損害賠償請求権の帰属について

民法上の組合の財産は、各組合員の個人財産とは独立して包括一体性をもち、総組合員の合有に属するから組合員各自の分割請求は許されない。

原告ら主張の損害賠償債権は、原告らの主張によれば業務執行組合員たる被告共栄興産ほかの甲、乙各事件被告らが組合財産を違法に侵害したことにより発生した組合財産に帰属する債権となるものであるから、総組合員の合有に属し、全組合員が共同してのみ行使しうるものである。

民法上の組合は法人格はないが、民法上の法人に準じて、解散決議があっても清算が完了するまでは清算の目的の範囲内で存続するというべきであり、原告ら主張の損害賠償請求に関する紛争も清算の範囲内にあり、未だ清算は完了していないことになるから、地主組合はなお右の範囲で存続していることとなる。

したがって、組合員の一部の者である原告らが甲・乙各事件被告らに対し、損害賠償請求権を行使することは許されない。

2 組合財産の不存在

(一) 本件土地の被告共栄興産への信託的譲渡

土地所有権の事業主への移転は事業認可の前提要件であるところ、昭和四七年一月一八日の事業認可までの間に、後に組合員となった者らは被告共栄興産との間で、各所有地を被告共栄興産に対し信託的に譲渡し、温泉付宅地への造成と分譲を一任すること、被告共栄興産は右委託の趣旨に従い、事業を完遂し収益から工事費その他必要経費を控除した残額を配分金として分配することを骨子とした契約が成立した。

したがって、本件土地の所有権は、事業認可以前に被告共栄興産に信託的に移転しており、地主組合に出資されてはいない。

地主組合の組合規約には「出資」の語が用いられているが、被告共栄興産に対し本件事業のために各組合員が土地を信託的譲渡していることを組合の名で確認したものにすぎない。

また昭和四七年六月下旬ころ、被告増田が被告共栄興産名義に所有権移転登記をなすべく法務局担当者に相談したところ、信託登記は手続が複雑で費用、時間がかかり、その後の合筆、分筆が技術的に困難であり、通常は組合役員三名程度の名義で所有権移転登記をしている旨の助言があったので、これにしたがい所有権移転登記を地主組合理事三名の共有名義とすることになり、これにあわせて承諾書等にも「出資」の語が用いられる表現となったものである。

(二) 組合財産

住友銀行からの借入金二億二〇〇〇万円は地主組合との連名でなされているが、右は被告共栄興産の政策的理由によるものにすぎず、実質的に被告共栄興産が借入れたものであるから組合財産に属しないものであり、その他地主組合の財産なるものはなんら存在しなかった。

(三) 被告共栄興産の事業勘定

被告共栄興産の会計事務のうち本件事業に関する部分は帳簿上独立して処理されているが、これは被告共栄興産が地主組合から委任を受け、善良な管理者の注意義務を持って事務を処理すべき立場にあることから、本件事業外の被告共栄興産の会計事務との混同を避けるためのものであり、被告共栄興産全体の会計中における本件事業用の独立勘定(以下「事業勘定」という。)であり、組合財産の存在を前提とするものではない。

事業勘定については清算手続をなし、残余財産は現物で分配され、清算は結了している。

(四) 地主組合の性格、目的等

組合規約は、「造成工事並びにこれに伴う公共減歩等の用地の管理及び造成土地の売却等を公正、円滑に行なうことを目的とする」としている。しかし事業の認可を受けていない地主組合は造成工事、土地売却をなしえないのであるから、右は地主組合が、被告共栄興産の行なう事業が円滑に遂行され、組合員の配分金受領の目的が達成されるよう監視、助言、協力することを表わしているものである。

以上のとおり、出資はなされず、組合財産もないものを民法上の組合ということができるかは疑問はあるが、関係当事者は民法上の組合に該当するとして、総会、役員会を開催してきたものであって、組合として存立した事実は認める。

3 工事費支出について

(一) 被告共栄興産は、昭和四四年ころ、甲、乙地区のみの造成分譲計画をもって事業認可申請をしたことがあったが、宅造法の認可基準である公益性が認められないとして申請は却下された。

そこで被告増田は財団法人日本クリスチャン・アカデミー(以下「クリスチャン・アカデミー」という。)が青少年センターを設置する計画のあることを知り、誘致の交渉をし、被告共栄興産所有の丙地区を提供してアカデミーハウス建設誘致の了承を得、乙地区に被告共栄興産の事務所、源泉の保持施設、ゴルフ練習場、駐車場を設け、甲、乙、丙地区一体とする本件事業計画を作成して申請し、その結果、公益性を認められて本件認可となったものである。

右のとおり、乙、丙地区の計画は初期の段階から確定しており、原告ら組合員にもこれらを含めて説明し、書類、図面閲覧の機会を与え、周知方を図っている。

したがってその工事費が事業勘定から支出されるのは当然であり、地主組合に損害を与えるものではない。

なお原告ら主張の乙・丙地区の工事は右目的に従った簡単なもので、甲地区の一〇分の一程度のものであった。その後、昭和四八年末の石油ショックによる土地需要の低下、アカデミーハウスの計画縮小、特別土地保有税対策等のため、本件事業計画とは別に乙、丙地区のアカデミーハウス敷地以外を温泉付分譲地とすることとし、昭和五二年ころ右工事を完成したが、その費用は被告共栄興産において負担している。

(二) 地主組合では理事五名、監事二名で構成する役員会が総会の前段階として開催され、理事は業務執行を委任された者にあたるところ、その過半数をもって乙、丙地区の造成事業を甲地区とともに組合の事業として扱うことが決議された。

(三) 昭和五七年三月一八日、地主組合の総会において、乙、丙地区の造成事業を甲地区とともに組合の事業として扱うことが承認された。右は乙、丙地区関係部分の工事費の支出が地主組合の意思に合致し、善管注意義務に反するものでないことを確認し、また被告両名に対する一切の責任を免除し、請求権を放棄したものである。

原告らは、業務執行組合員の損害賠償責任を免除するには全組合員の同意が必要であり、右総会において原告らは議案に反対したから責任は消滅しない旨主張する。しかし民法上の組合の内部規制は当事者の自治的意思に委ねられ内部規約があるときはそれにより、それがないときは民法の関係条文に準拠することをもって足る。地主組合の規約には総会決議事項について何らの限定はなく、他に別段の内部規則もないから、組合員の半数以上の出席する総会において出席者の過半数の同意をもって意思決定が有効になされうるものである。

4 公共減歩について

(一) 甲地区は多数の小区画を設け、道路に面するようにするため道路面積が大きくなるうえ、公園を設ける必要もあった。他方、乙、丙地区は中央に町道が通り、小区画に細分することもないので法規上道路、公園の新設は要しなかった。

したがって、甲地区と乙、丙地区とで公共減歩率が異り、前者のそれが大きくなることは法規、行政指導上当然である。

被告共栄興産は法規、行政指導にしたがい公共減歩を最小限度にとどめ、減歩率三〇パーセントと予測し、地主組合の承諾を得、工事の結果、甲地区の減歩率はその範囲内の二七・四六パーセントとなっている。

(二) 前記昭和五七年三月一八日の地主組合総会においての造成工事についての承認は無条件のものであるから、公共減歩に関し被告共栄興産のとった処置が地主組合の意思に合致し、善管注意義務に反するものでないことを確認し、また被告共栄興産、被告増田に対する一切の責任を免除し、右各被告らに対する請求権を放棄したものである。

5 仮払金について

(一) 仮払金は次のような事情の見返りとして、被告共栄興産の資金繰り、本件事業遂行のため、また組合員に対する配分金の前渡金として使用されたものであるから、被告共栄興産には組合長としての任務違背はない。

① 本件事業のため、被告共栄興産と地主組合は連名で銀行から二億二〇〇〇万円を借入れたが、その際供した担保は被告共栄興産、被告増田の所有物件である。

② 被告共栄興産は地主組合の固有の事務のために要員の約五〇パーセントを専従させてきた。昭和四八年から昭和五七年までのその人件費は少なくも一億三〇〇〇万円となる。

③ 被告共栄興産は地主組合固有の業務のため事務室を提供したが、右同期間の使用料は少なくも三二〇〇万円となる。

④ 後記のとおり被告共栄興産に帰属する温泉権利金二億五五〇〇万円を事業勘定としたため運用できず、その利息相当額二六〇〇万円は雑収入として事業勘定に入れられている。

(二) 昭和五七年三月一八日、地主組合の総会において、地主組合は発足当初より被告共栄興産から、前記のとおり資金的にも人的にも多大の援助を受けている事情を勘案し、利息等は付加しないで処理する旨決議された。

右決議により仮払は正当なものとして了承され、利息相当金は免除、放棄された。

6 販売手数料について

(一) 地主組合設立総会において、公共減歩と公共等減歩差二・三パーセントをもって、組合費用を賄い、残金は被告共栄興産の手数料とするとされ、被告共栄興産に本件事業遂行を全面的に委任しているのでその報酬、手数料を支払うことは当初から予定されていた。

その後、被告共栄興産の努力により目標達成の見込みが十分となったこともあり、右の定めでは少額に過ぎるとの地主組合側の判断で、昭和五一年五月四日の役員会において、宅地建物取引業法所定の計算方法を基準とした報酬を支払う旨の決議がなされた。

被告共栄興産は分譲販売業務に関し、仲介業者との折衝、契約締結、販売計画の立案、価格の認定申請手続、業者の指導督励をし、その必要経費の実費弁償及び手数料として支払いを受けたものである。

したがって販売業者に対する仲介手数料とは性質を異にし、二重払いとなるものではない。

(二) 被告共栄興産が右のような手数料、報酬等を受けることについては、昭和五七年二月四日の地主組合の役員会を経て同年三月一八日の総会において承認された。本件のような内容・態様の金銭支出について地主組合の事前承認を要するとの内部規則はないから、善良な管理者の注意義務をもって事務処理にあたる限り事前の承認は要しない。

また右決議は被告両名に対する一切の責任を免除し、請求権を放棄したものである。

四  被告両名の主張に対する認否及び反論

1 被告両名の主張1は争う。

2(一) 同2(一)の事業主への土地所有権移転が事業認可の要件であること、被告共栄興産に対し本件土地が信託的に譲渡されたことは否認する。

対象区域内土地の所有権移転は事業認可の要件ではなく、所有権者の同意があれば足りる。

地主組合に対し各組合員が土地を出資したことは組合規約、地主組合との間で交わされた承諾書、念書等の文面、理事の共有名義の登記がなされたことからも明らかである。

(二) 同(二)は否認する。

被告ら主張の承諾書記載の配分価格の約定は、そのもととなる規約改正のための組合総会が開催されていないから無効のものであり、また被告ら主張の清算結了は損害賠償債務を免れるための工作にすぎない。

(三) 同(三)は否認する。

(四) 同(四)は否認する。

事業認可がなければ住宅地の販売ができないとの規制はない。

地主組合が民法上の組合として独自の財産を有し、運営されてきたことは、各組合員から取付けた承諾書に組合の残余財産分配を意味する「清算金」の記載があること、被告ら自身組合の解散、清算の手続をしていること、これまでの地主組合の理事会議事録、総会議事録、理事から各組合員宛の書面等の記載からも明らかである。

3(一) 同3(一)中、乙・丙地区の計画が、組合員に知らされていたことは否認する。

(二) 同(二)は否認する。

役員会においては、総会で意見を聞き、必要があれば清算も考慮するとされていた。

(三) 同(三)中、被告ら主張の総会決議がなされたことは認めるが、その余は否認する。

被告共栄興産は乙・丙地区が被告共栄興産所有地であり、クリスチャン・アカデミー関連部分がわずかであることを秘匿し、乙・丙地区を分譲地とし、莫大な利益をあげたことを秘匿して承認決議を得たものである。

また業務執行組合員の不法行為による損害賠償請求権は、組合員全員の同意がなければ免除されないところ、原告らは総会においてこれに反対した。

4(一) 同4(一)については、被告共栄興産は乙・丙地区を甲地区同様造成分譲しており、クリスチャン・アカデミーの実態は不明である。甲地区がなければ被告共栄興産は自己所有地を公共用地として提供する必要があったのであり、乙・丙地区には道路は極めて少なく、公園もなく、公共減歩差は大きいのであって、甲地区に損害が発生していることは明らかである。

(二) 同(二)は否認する。

組合員には乙・丙地区の存在さえ知らされていない。

5(一) 同5(一)は否認する。

(二) 同(二)は否認する。

総会において被告両名主張のような説明はなされていない。

業務執行組合員の不法行為による損害賠償請求権は、組合員全員の同意がなければ免除されない。

6(一) 同6(一)については、事務費用の実費は別途地主組合から雑費として支払われており、地主組合の創立総会において公共減歩差をもって組合費用すべてを賄い、残余を被告共栄興産の手数料とするとされ、被告共栄興産は二四一〇万円を受領しているのであって、これ以外に被告共栄興産に手数料を支払う必要はない。

(二) 同(二)は否認する。

業務執行組合員の不法行為による損害賠償請求権は、組合員全員の同意がなければ免除されない。

(乙事件)

一  請求原因

1 甲事件請求原因1のとおり。

2 甲事件請求原因2のとおり。

3 被告共栄興産は地主組合の業務執行組合員たる組合長、被告増田は被告共栄興産の代表取締役の地位にあった者であり、乙事件被告中澤信連、同蛭川恒昭、同松山興産株式会社、同丸山正幸(以下「被告丸山」という。)は地主組合の理事、乙事件被告小川擴及び同橋本勝記は地主組合の監事の地位にあった者である(以上八名のうち被告増田を除いた者を「被告ら七名」という。)。

4(一) 地主組合は本件土地を造成工事のうえ温泉権付で販売したが、昭和五八年三月三一日現在で右販売高は一一億〇六五四万〇二円であった。

(二) 温泉権は土地を離れて存在するものではなく、組合員が出資した当初の本件土地三四区画は温泉権付のもので、これが最終的に四二六区画の温泉権に細分化され、同一性は失われていないのであるから、販売された土地の温泉権も地主組合に属するものである。

(三) しかるに被告ら七名は昭和五八年四月二一日の理事・監事合同役員会において、右販売金のうち二億五五六〇万円が温泉権利金であり、そのうち二億三六六〇万円が被告共栄興産に属する旨全員一致で決議し(被告丸山に委任状による。)、地主組合に属するとした残額一九〇〇万円についても被告共栄興産の地主組合に対する債権と相殺するとして昭和五九年二月二〇日、二億五五六〇万円全額につき帳簿操作を行い、地主組合の財産から二億五五六〇万円を減少させた。

5 被告共栄興産は、地主組合の組合長として業務を執行する地位にあるところ、善良な管理者としての注意義務を怠り、原告らの委任の趣旨に反して前記のとおりの債務不履行または不法行為にあたる行為をなしたものであり、その余の乙事件各被告らは被告共栄興産と共同して前記不法行為をなしたものである。

6 被告ら七名及び被告増田は前記不法行為または債務不履行により地主組合に二億五五六〇万円の損害を被らせた結果、原告らに対する配分の原資となるべき財産を減少させた。これにより原告らは利益配当請求権を侵害されたものであり、その各損害額は別紙出資一覧表「価額」欄記載の各自の金額の全金額合計に対する割合に応じた別紙請求金額一覧表「乙事件請求金額」欄記載のとおりとなるから、乙事件各被告らは連帯して右損害を賠償すべき責任がある。

7 甲事件請求原因9(二)、(三)のとおり。

よって、原告らは、被告共栄興産に対し、不法行為または債務不履行による損害賠償請求権に基づき、その余の乙事件各被告らに対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、連帯して、前記各請求額及び右各金額に対する昭和五九年二月二一日から各支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

(被告丸山を除く乙事件被告ら)

1  請求原因1、2については甲事件請求原因1、2に対する認否のとおり。

2  同3は認める。

3(一)  同4(一)中、地主組合が造成工事をなし、販売したことは否認し、販売高が原告ら主張のとおりであることは認める。

造成、販売をしたのは被告共栄興産である。

(二) 同(二)は否認する。

(三) 同(三)中、被告ら七名が原告ら主張のとおり理事・監事合同役員会において決議をしたこと、一九〇〇万円について被告共栄興産の事業勘定と相殺処理がなされたことは認めるが、その余は否認する。

4  同5、6は否認する。

5  同7については甲事件請求原因9(二)、(三)に対する認否のとおり。

(被告丸山)

1  請求原因1中、被告丸山について、原告ら主張の出資がなされた旨の書面が作成され、地主組合の組合員として取り扱われていたこと、地主組合につき原告ら主張の目的が記載された書面が作成されていることは認めるが、その余は知らない。

2  同2は知らない。

3  同3中、被告丸山が地主組合の形式上の理事として取り扱われていたことは認めるが、理事の地位にあったことは否認し、その余は知らない。

4(一)  同4(一)は知らない。

(二) 同(二)は知らない。

(三) 同(三)中、被告丸山が原告ら主張の行為をしたことは否認し、その余は知らない。

5  同5中、被告丸山に関する部分は否認し、その余は知らない。

6  同6は否認する。

7  同7は争う。

三 被告らの主張(乙事件各被告ら)

1  甲事件についての被告両名の主張1、2のとおり。

2  温泉権利金について

(一) 被告共栄興産は昭和四三年一二月に第一号源泉、昭和四五年一一月に第二号源泉、昭和四九年一月に第三号源泉の掘削に成功した。右各源泉は被告共栄興産所有地内にあり、被告共栄興産独自の資金により完成したものであり、源泉権は被告共栄興産に帰属する。

被告共栄興産は温泉権付分譲地の各取得者と温泉供給契約を締結しているが、分譲価格は北海道知事の認定を要し、認定価格には温泉関係部分が含まれ、当該部分について毎年二度、確認申請と決定がなされている。

右分譲価格のうちの温泉関係部分(温泉権利金)は、温泉受給権の対価であるから、源泉権を有する被告共栄興産に帰属する。

(二) もっとも、被告共栄興産が本件土地を従前、後に地主組合の組合員となった者に譲渡した際、温泉分湯使用権を無償で与える旨約していたことから、被告共栄興産は組合員の出資土地の筆数に相当する三四口分を還元することとした。

(三) 温泉権利金の処理については、昭和五七年三月一八日の地主組合総会において理事会に一任することが承認されていたところ、被告共栄興産の右(二)の方針は昭和五八年四月二一日の地主組合役員会において承認され、同年九月二九日の地主組合総会において報告、承認された。

これに従い、温泉権利金二億五五六〇万円から温泉給湯施設費六四一六万七二一〇円を控除した残額のうち三四口相当分一九〇〇万円を地主組合に配分することとし、地主組合解散に伴う清算手続において、右金額と被告共栄興産の事業勘定に対する債権を相殺処理したものである。

したがって温泉権利金の処理について違法、義務違反はない。

四 被告らの主張に対する認否

1  被告らの主張1については甲事件「被告両名の主張に対する認否」1、2のとおり。

2  被告らの主張2中、被告共栄興産が本件土地を後に地主組合の組合員となった者に譲渡した際、温泉分湯使用権を無償で与える旨約していたことは認めるが、その余は否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  まず地主組合が民法上の組合に該当するか否かにつき検討する。

《証拠省略》を総合すれば、次の事実が認められる。

1  被告共栄興産は不動産の管理、賃貸、売買、住宅地の造営、建売等を目的とする株式会社である。同被告は昭和四二年ころまでには本件土地付近一帯を買収し、昭和四三年一二月に第一号源泉の掘削に成功していたところ、甲・乙地区につき宅造法による造成事業計画の認可申請をしたが、地域に対する貢献等の公益性がないとして認可が得られなかった。

同被告は更に丙地区の土地買収を進めるとともに温泉源掘削の資金が必要であったこともあって、甲地区の土地を温泉権付で昭和四七年ころまでに順次、同被告を除く別紙出資一覧表「組合員名」欄記載の者らに売却した。

2  この間、被告共栄興産の代表取締役である被告増田はクリスチャン・アカデミーが第三ハウスを建設する計画のあることを知って、その誘致に努め、被告共栄興産は丙地区をその用地として提供することにより公益性を備える事業とすることとし、関係官庁の指導を受けつつ甲・乙・丙地区を一体として開発する事業計画をたてた。右計画は、甲地区を多数の宅地区画に造成し、これを温泉権付分譲地として販売することにより利益をあげることを意図したものであった。

そこで被告共栄興産は、計画区域内の土地所有者に事業計画の説明をして同意を求め、昭和四六年一一月ころ、後に地主組合の組合員となった別紙出資一覧表「組合員名」欄記載の者から「住宅地造成事業の事業計画に異議がないので施工に同意する」旨記載された同意書を取付けたが、右各同意書中の同意者の「権利の内容」欄には「所有権・移転を含む」との記載がなされていた。

3  事業主を被告共栄興産とする事業計画認可申請に対し、昭和四七年一月一八日付で、北海道知事の認可通知がなされた。右申請、認可は甲・乙・丙地区合計二四万二一五〇・九三三平方メートルについてなされており、添付の設計説明書には、丙地区にアカデミーハウスの誘致を決定し、その周辺には駐車場、その他の公共性のあるものに利用する計画である旨、また施行地区内の土地の所有者別概要として、自己所有割合二三・七八パーセント、他人所有割合七五・五六パーセントと記載されていた。

4  被告共栄興産は当初、甲地区の土地所有者で組合を結成し、将来はこれを土地区画整理組合とすることを意図してその準備をしていたが、土地区画整理組合として認可される見込みがないことが明らかになったため、民法上の組合として地主組合を設立することとなった。

昭和四七年六月三日の地主組合設立総会において、委任状による者も含め、全員の出席で組合規約が承認されたが、右組合規約では、組合員は甲地区内の各所有地を出資すること、組合は右土地の「造成工事並びにこれに伴う公共減歩等の用地の管理及び造成土地の売却等を公正、円滑に行うことを目的とする」ものとされ、また総会において理事五名、監事二名を選任し、理事は組合長一名を互選するものとし、理事は総会において決議された事業を遂行し、監事はこれを監査する、組合長はこの組合を代表し、組合の事務を執行する旨定められていた。

そして右総会において理事、監事の役員が選任され、組合長には被告共栄興産が就任し、出資された土地は組合長名義に移転登記することとされた。

5  本件土地については、当初、被告共栄興産は、同被告単独名義の信託登記をする意図であったが、信託登記は手続が複雑で費用も多額となる等の問題が判明したため、組合理事三名の共有名義とする所有権移転登記をすることとなった。

6  同年九月一八日の理事会兼役員会において、出資された各土地の評価、分譲計画をもとに各土地につき収益配分基準が定められ、これに基づいて各組合員から承諾書を得ることとされた。

右承諾書は、各組合員から地主組合理事宛の様式のもので、組合員が各所有地を組合に出資すること、右土地を組合理事の共有名義に移転登記すること、公共等の減歩は三〇パーセントとすること、造成工事完了検査後、坪数割による「造成費用を差引き総額概算(空欄)万円並びに清算金の授受を結了したときまたは該当残地の返還登記を受けたとき」に組合員の資格を失うことをそれぞれ承諾する旨記載されており、右金額欄には前記分配基準を基に各組合員と交渉した結果による分配金額が記入され、同年一〇月ころまでに各組合員はこれに署名捺印して理事に交付した。

またそのころ、組合長理事被告共栄興産、副組合長理事真々田亘、理事被告中沢信蓮の三名連名で各組合員宛に、出資土地は理事の共有名義の登記とされたが売買完了までは出資者に権利があり、理事において管理する旨、また出資土地は無断で第三者に譲渡処分できない旨記載された念書がそれぞれ交付された。

そして同年一一月ころから昭和四八年にかけ、被告共栄興産所有地を含め、甲地区内の各土地につき前記理事三名の共有名義とする移転登記手続がなされた。

7  同年九月三〇日、造成工事についての工事請負契約が松井建設株式会社との間で締結されたが、右契約書には注文者として被告共栄興産とともに地主組合組合長が連名で記載された。

また同年一一月七日、温泉使用権付分譲地販売につき、北海道綜合商事株式会社ほかとの間で販売協定が締結されたが、右協定書の委託者は地主組合及び被告共栄興産連名とされた。

造成工事の結果、本件土地は四二六区画となり、温泉給湯施設が付けられて順次販売された(昭和五一年三月からは公務員弘済株式会社ほかが委託販売することとなった。)。

8  造成、分譲販売に関する一連の事務処理は専ら被告共栄興産があたってきたが、設立総会以降、長期間、総会が開催されることはなかったものの、随時、重要事項につき協議するため理事会兼役員会が開かれていた。

また本件事業に関する会計は被告共栄興産自身の会計とは別に帳簿が作成され、独立して処理されており、毎年一度収支報告が各組合員に送付され、また、監事の監査を経た決算報告も各組合員に送付された。

9  しかし昭和五七年ころから、原告らのうち数名の者が被告共栄興産による組合の運営、経理処理に不審、不満を持ち、組合内部が対立するに至り、円滑な事業遂行が困難となった。

昭和五八年九月二九日の地主組合総会において、同月三〇日をもって地主組合を解散することが賛成多数により決議された。

その後、理事が清算人となって清算事務を行ない、販売未了の三八区画を現物で配分することとし、清算人は昭和五九年二月二〇日をもって清算事務を終了した旨組合員に通知した。

以上の事実関係からすれば、地主組合は別紙出資一覧表「組合員名」欄記載の者が組合員となり、本件土地内の各所有地を出資して成立した民法上の組合と認めるのが相当である。

甲・乙事件各被告らは、本件土地は地主組合設立前に被告共栄興産に信託的に譲渡されており、地主組合には出資されておらず、地主組合に独自の財産は存在しない旨主張し、《証拠省略》には、これに沿う部分がある。

しかしながら、各土地提供者との間で被告共栄興産に土地を信託的に譲渡したことを直接に証する書面は何ら作成されておらず、かえって前記認定のとおり、被告共栄興産自身主導的に地主組合設立に関与して、その所有地を地主組合に出資する旨の組合規約に記名捺印し、同趣旨の承諾書を地主組合理事宛に提出し、自己所有地についてすら地主組合理事三名の共有名義に移転登記がなされているのである。前記認定のとおり、被告共栄興産が関係土地所有者から取付けた施行同意書には「所有権・移転を含む」との文言があるけれども、住宅地造成事業は施行地区内の土地が事業主の所有であることを要するものではなく、被告共栄興産は他人所有地が存在することを前提に事業認可申請をし、これが認可されているのであり、右同意書は被告共栄興産の造成事業の申請にあたり必要とされる関係者の同意を証する趣旨の書面にすぎず、右記載をもって被告共栄興産に対し信託的譲渡がなされたとは到底認め難いし、これが将来被告共栄興産に所有権移転する趣旨であるとしても、前記認定のとおり、その後の検討の結果、結局、本件土地を地主組合に出資して民法上の組合を設立するという方法が選択されたのであって、組合に対する出資と両立しないこととなる被告共栄興産に対する信託的譲渡につき組合員の承諾がなされたと認めるに足りる証拠はない。そして地主組合が単なる名目上のものではなく、重要事項については理事会において協議がなされ、地主組合の会計は被告共栄興産自身のそれとは独立して処理されてきたことからしても、被告らの主張に沿う前記各証拠は採用できないといわなければならない。

そして地主組合は宅造法所定の認可を受けた事業主ではないから、住宅地造成事業自体を実施することは許されないものであるところ、地主組合規約の目的には前記認定のとおり造成工事を地主組合自ら実施するものと解されるような記載があるけれども、地主組合は造成事業自体を唯一の共同事業目的とするわけではなく、造成事業の成果を組合のものとし、これを温泉権付分譲地として販売し、収益を得ることを目的とするものと解されるのであるから、右のような公法上の制限があるからといって、組合契約が無効となるわけではない。

二  そこで原告らによる損害賠償請求権の行使の可否について検討する。

1  原告らの甲・乙事件請求は、甲・乙事件各被告らの不法行為または債務不履行により地主組合の財産が侵害された結果、組合員に配分される財産が減少したことによる原告らの損害の賠償を求めるものである。

しかしながら、民法上の組合の組合財産は組合員の共有に属し、組合員個人の他の財産とは独立して存在し、持分の割合によって各組合員に分割されるものではない。

したがって、仮に原告ら主張のとおり、右各被告らの行為により地主組合の財産が侵害されたとしても、これによる損害賠償債権は組合財産に属するものであって、一組合員がこれを請求しうるものではないし、各組合員に独自の損害賠償請求権が発生するものとは解し難い。

そうすると本件各請求は地主組合のために提起されたものではなく(原告らはいずれも地主組合のために訴訟を提起する権限を有するものではない。)、原告らが一組合員として損害賠償請求をなすものであることは主張自体から明らかであるから、その請求は理由がないことも明らかである。

2  また原告らは甲事件請求原因9(二)、(三)(乙事件請求原因7)のとおり主張するけれども、原告ら主張のとおり組合内部に原告らと右各被告らの対立があり、組合による損害賠償請求権行使が事実上期待しえず、地主組合が清算すべき状態にあるとしても、これらの事情があるからといって組合財産に属する債権を原告らが行使しうるものとは解し難いし、また原告ら主張のとおり、地主組合が解散されたにもかかわらず、清算人が損害賠償請求権の存在を否定し、その分割が期待できないとしても、原告ら主張のとおりの損害賠償債権が組合財産として存在するのであれば、組合は清算の目的の範囲内でなお存続しているのであり、全組合員の合意または清算人による残余財産の分配として本件損害賠償債権が分割され、原告らがこれを取得していない以上、原告らがこれを行使することはできないというべきである。

(なお、原告らは、残余財産分配の比率について、別紙出資一覧表記載の金額を基礎としているけれども、右は被告共栄興産から原告ら各自が出資の対象とした各土地を被告共栄興産から取得した際の売買価格であり、右価格は被告共栄興産と個々の交渉の結果合意されたものにすぎず、その取得の時期も単位面積価格も異なっていることからすれば、必ずしも出資時点における客観的な価額を表わすものとは認め難い。他方、清算人は前記一6認定の各組合員から取付けた承諾書記載の分配金額を基に配分額を定めているが、前記認定の承諾書の記載からすれば右金額自体は収益配分に関するものと解されるのであり、また右金額は組合理事と個々の組合員との交渉の結果合意されたもので、《証拠省略》によれば、各組合員は他の組合員についての分配予定金額を全く知らされていないことが認められることからすると、これをもって残余財産分配についての全組合員の合意と認めることもできない。そして他に残余財産の分配率についての合意を認めるに足りる証拠もなく、残余財産分配の基準となる各組合員の出資の価額を認定するに足りる的確な証拠は提出されてはいない。また組合解散決議の有効性はともかくとして、本件記録によると昭和四七年九月一八日改正による組合規約付則二条により右決議当時の理事が清算人とされているが、右規約改正が組合員の合意によりなされていないことからすると清算人選任手続に疑義がないわけではなく、販売未了の土地を適宜割当てる方法により残余財産を分配する権限が清算人に与えられていたかも明らかではない。)

3  そうするとその余について判断するまでもなく、原告らの甲・乙事件各請求は理由がないことが明らかである。

三  よって、原告らの甲・乙事件各請求はいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 髙野伸)

〈以下省略〉

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